夜更けの検車場に微かな音
新造車両は脈動していた。従来型の車体に組み込まれた制御基板が、夜ごと静かに、かつ確かに学習していく。彼は検車灯の下で、その呼吸を確かめるように日記をつけていた。
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新造車両は脈動していた。従来型の車体に組み込まれた制御基板が、夜ごと静かに、かつ確かに学習していく。彼は検車灯の下で、その呼吸を確かめるように日記をつけていた。
彼は今夜で三度目の灯台の廃灯を経験する。一度目は祖父の仕事場だった岬の灯台で、二度目は観光用に残された偽物の灯台で、三度目がここだ。どこも同じ手順で終わる。白いペンキを塗り直し、ガラスを拭き、…
水族館が閉館して二年になる。彼だけが残った。給料は毎月、誰の承認もなく自動で振り込まれる。これは誰かの忘れものか、それとも、誰かがわざと見て見ぬふりをしている何かなのか。彼は問わないでおくこと…
標高千六百米の集配所では、雲が時速四十キロで流れ抜ける。夜勤の彼は熱いコーヒーを啜り、モニターを見ていた。仕分け機械が今晩も、宛先のない荷物を静かに吐き出し続けているのに気づいたのは、午前二時…
深夜の銭湯は、硬貨の味がする。十円の縁は薄く、指の腹を切るほどではないが、世界の境界はそこよりずっと薄い。補充係の私は、閉店後に栓をひねり、湯の減り方を数える。今日は一枚だけ、十円が湯の底で息…
コンビニ店員の僕は、今日のレジ締め作業で奇妙なことに気づいた。通常ならデータとして残るはずの、消費者の「無意識の購買行動」のログが、全て欠落している。まるで、誰かがこの街の記憶から、最も安価な…
裏山の養蜂場で一番奥にある巣箱が、初めて空になったのは、秋の宝くじの当選発表が流れた夜だった。蜂は姿を消し、箱の中には蜜だけが満タンに残っていた。まるで、働く者がいなくなったあともシステムだけ…
集落の灯が七つに減った夜、離島診療所の時計だけが三十分遅れていた。受付の私は、未納の診察券を束ねながら、海の外で誰かがこの島を名簿ごと書き換えている気配を感じていた。それは悪意ではなく、配慮の…
彼の仕事は、冬の海の家を、冬であることに気づかせないことだった。シャッターを下ろし、落書きを塗りつぶし、錆の跡を企業指定の青で上塗りする。正確には消すのではなく、隠す。夏が来れば、誰もこの三か…
旅館の板前場には、深夜二時になると、白い湯気と師匠のため息が定位置に戻ってくる。彼は大根の桂剥きをしながら、源泉の温度計が毎晩零点三度ずつ、上に這っていくのを眺めていた。
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